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共感力の使い方

99.9%が対人である「先生」という仕事。

子どもとの関係性をよりよくするために「共感力」がものを言うことはもはや説明いらずでしょう。

ただ、「共感疲労」という問題も見過ごせません。

本記事では、バーンアウトの要因となり得る「共感力」をテーマに、正しい使い方を紹介。

ぜひとも、読んでみてくださいね。

「共感力」の必要性

「共感力」は、人間関係を深め、他者と協働して無理難題を乗り越えていく原動力になります。

共感力のおかげで人間が食物連鎖の頂点となり、ここまで栄えることができたと言っても過言ではないでしょう。

人間にとって必要不可欠な共感力は、生まれながらに身に付いているんじゃないか?とも言われています。

「泣いている大人に幼児がぬいぐるみを差し出す」なんて反応が見られたり、「〇△□という単純なカタチを使って、『〇を△が攻撃し、□が助けるなんてストーリー』を見せられた幼児は、□を好きになる」なんて反応も確認されているのです。

さらに、共感力の素晴らしさは、「学習」を促すという部分にあります。

種を伝えていくという生き物の第一目標を達成するためには、とにかく生き残ることが必須になりますよね。

そして、生き残るためには、痛みとか苦しみというネガティブがなるべく自分の身に起きない方がいい訳で。

そのために共感力を発揮して学習することが役に立つ。

他人の苦悩に注意を払って自分も同じ状況にならないようにしたり、対処法を学んだりすることができれば、二の舞になる確率を減らすことができるでしょう。

だからこそ、ネガティブ情報が強く記憶に刻み込まれるという人間の特性につながっているのです。

要するに、共に悲しんだり励ましたりするという一般的に知られた共感行動は、人間関係を深めると共に、生き残る確立を高めるという目的もあるのです。

メンタルダウンを引き起こす「過共感」の罠

生き残るための手立てである共感力。

人間にとって必須の能力も、極端な使い方をすると、むしろマイナスに働くことがあるのです。

覚えておきたいのは、

「共感力を発揮する」ことと、「相手の痛みを自分事のように感じること」は違う

ということ。

確かに、苦しんだり悲しんだりする相手の状況を理解し、言葉をかけたり、解決法を考えたりすることは、共感力のなせる技でしょう。

ただ、あまりにも過度に共感しすぎると、「次の行動が取れない」というデメリットにつながる可能性あり。

例えば、相手の悲しみに共感して「ただただ、共に泣く」というもの。

この「共に泣く」という行為によって気持ちが救われる場合もあるでしょうが、ただ、泣いていても問題は解決しないこともある。

人間って、他者の痛みをあまりにも自分事として感じてしまうと、その問題を回避しようという本能が働いて、立ち止まったり、問題を見て見ぬふりをしたりする癖があるのです。

本当に相手のためを思うのであれば、次の一手を促す方が生産的でしょう。

共感力は大切だけれど、その働かせ方には注意した方が良さそうです。

【コラム】共感力を極めた仏僧

「過共感によって行動不能になる」という例を紹介します。

長年の修行を積み重ね一般人とは違ったメンタルモデルをもつ仏僧の話。

マウチ・リカールという仏僧に、「痛みに共感してください」という指示を出し、脳神経画像を調べたところ

一般的に見られる共感反応が見られ、強い嫌悪感につながった。

というのです。

リカール曰く、「共感の共有はすぐに耐えられなくなり、私は心情的に疲れ果てた」とのころ。

やはり、修行を積んだメンタルのスペシャリストでも、「痛み」に焦点化して共感するよう求められると、一般人と同じようなメンタルダウンを引き起こすことが懸念されたのです。

しかし、リカールが仏教徒として思いやりの考えに集中しているときは、恐怖を司る扁桃体は落ち着き、中脳辺縁系ドーパミン経路の強い活性化という一般人とは全く違った活性化画像が表示だれたのこと。

リカールは、その時の状態を「強い向社会的意欲をともなう心温かい前向きな状態」と表現しています。

一般人が急にリカール化することはできないでしょうが、共感力という能力は、意識によって働く脳部位が違うということは、おもしろい事実ですよね。

自分がどれだけ共感力を発揮しているかは、このテストでチェック👇

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「共感力」の暗黒面

「共感」と聞くと、なんとなくポジティブなイメージをもつでしょうが、そんな共感の暗黒面も知っておく必要があります。

実は、共感力は、「自分と近しい人により強く働く」という特徴があることを忘れてはいけません。

スポーツなんてのは分かりやすいですね。

自分が応援しているチームの選手が理不尽な扱いを受けると「ふざけんな!!」と思っても、相手チームの選手だったら「(理不尽さを受け入れて)まぁそういうこともあるよねー。」となる。

このような反応は、「自分がどちらの視点に立っているか」によって共感力を発揮する方向性が違っているから。

もっと対象を広げると、「全世界数十億人に対しては共感力が働かなくとも、家族とか恋人、友人に対してはめちゃくちゃ共感的になる」ということ。

共感力は万人のためのものじゃないってことも忘れないようにしたいものです。

暗黒面に触れたところで、次は、「どうやって使っていくべきか?」について考えていきましょう。

【コラム】共感力は認知力?

「私は集団を見ても行動しない。一人を見ると行動する」byマザー・テレサ
「一人の死は悲劇であり、100万人の死は統計である」byヨシフ・スターリン

共感力は、「自分に身近な存在ほど強く働く」と紹介しましたが、その理由は、「認知力」に隠されている模様。

上記のコラムで仏僧の実験を紹介しましたが、マウチ・リカールは、共感力の働かせ方を自らコントロールして、自分の気持ちが落ち着く方向へ心を導いていました。

これは、共感力の働かせ方は自分の意志によって何とかなるという事実であり、言い換えれば、

共感力を働かせるかどうかは、本人の認知力によって決まる

ということ。

研究者ジョーン・ディセティは、「他者に対する事前の心構えによって、情報処理の初期に共感の誘発が抑えられた」と報告しています。

ということは、認知力が共感力を発揮するか否かの門番的な役割をしていると考えられ、意識的に「発揮しよう!!」と思うことで働く認知的共感力もあると示唆されているのです。

家族や友達といった所謂「仲間意識」のある他者に対しては、意識しなくても共感力が働くでしょう。

反対に、「ビジネス上の付き合い」、「自分とは違った考え方の人」というような心理的距離が遠い人に対しては、共感力は働きにくい。

ただ、共感力を発揮しようという「意識(認知)」の力を借りることで、共感力を発揮することができるのです。

ちなみに、認知力を発揮しないと共感力が働きにくい場面がこちら。

・身体的痛みよりも、精神的痛み
・具体的痛みよりも、抽象的な痛み
・経験した痛みよりも、経験したことがない痛み

参考までに。

「共感力」と「注意力」の関係性

全ての人に生まれつき平等に与えられている貴重な資源の一つに「時間」があります。

信じられないくらいのお金持ちでも、国レベルを動かす権力者でも、時間を25時間にすることはできません。

子どもでも大人でも24時間という枠は、変わりません。

そう考えると、私たちの人生は、1日24時間という枠の中で、「どのように時間を配分していくか?」という話になる。

そんな命と同等の価値がある「時間」は、「注意力」と言い換えられます。

その人がある対象に注意を払っている瞬間、その人は、その対象に対して自分の時間を使っているのです。

心理学者のダニエル・ギルバートらは、スマホアプリを用いて、現代人の注意力を調査しました。
#グッド・ライフ

1日に数回、ランダムにスマホ通知があり、その度に「今、何をしていて、何を考え、感じているのか」を尋ね、記録してもらったのです。

5000人以上の実験参加者から得た情報から分かったことの一つに、

「人は、起きている時間の半分近くを、そのときにしている行為以外の何かを考えることに費やしていた」

というのです。

流行のマインドフルネスは、意識を「今ここ」に置くことによって日常生活に埋没した幸福感を取り戻すことに一役買ってくれます。
#マインドフルネスストレス低減法

1日の半分以上において注意散漫状態で過ごしているのですから、自分の意識を「相手」に向け続けることは、それほど簡単ではありません。

実は、「注意散漫」が人間のデフォルトモードと言われています。

人類の基本構造は、数万年前からほぼほぼ変わっていません。

狩猟採集民として暮らしていた先祖様の世界においては、一つのことに没頭する「今ここ」人間よりも、常に周囲の変化に敏感でいる注意散漫人間の方が、生き残る確立は高まったでしょう。

さらに、人間がもつ過去や未来を考えることができるという特殊能力も、「今ここ」を阻害します。

どうしても、過去を引きずってしまいますし、未来を考えて「今」の行動を制御しようとする。

周囲の変化だけでなく、時間軸を超えた可能性すら注意力を奪っていくのですから、どれだけ「今ここ」にいることが難しいのかが分かります。

そんな難しさを理解すると、相手に注意を向け続けることで成立する「共感」は、かけがない行為だと思えてきます。

しかしながら、自分は必死に注意を向けてたとて、相手が感じとってくれているかは別の話。

まぁ、そこまで意識すると恩着せがましくなるので言語化しないとはいえ、ちょっと気になりますよね。

では、「どうしたら相手に”気にかけてもらっている”と少しでも感じてもらえるのか?」という疑問を解決していきましょう。

「共感」の伝え方

世の中には、多種多様な考え方をもつ人がいて、置かれた環境と相まって日々変化しています。

その過程において、人と人が関わりながら人間関係を築いていくのですが、その関係性を充実させるために「話を聴く」という行動は欠かせません。

難しいのは、ただ話を聴けばいいってもんじゃないこと。

自分は聴いたつもりでも、相手には伝わっていなかったなんてことあるあるじゃないですか。

やはり、話を聴くという行動のメリットを享受するためには、傾聴スキルとまでは言いませんが、相手の目を見るとかスマホを見ないとか、「あなたに注目しているよ」という注意力の制御が必要になる。

ただ、相手のために注力を割き、こっちは聴く気満々でいたとしても、相手がこちらの気持ちを汲み取ってくれたかは実際のところ分かりません。

だから、自信喪失につながるのですが、相手に十分注意力を向けていれば、それほど気をもまなくても良さそうです。

2012年の研究によれば、

「相手に共感しようという努力さえすれば、人間関係は大きく改善される」

という結果が出ているのです。
#グッド・ライフ

その研究では、様々な背景をもつ156組のカップルを対象として、「過去1カ月の相手に対する不満やいら立ち、失望を感じた出来事について話し合ってもらう」というなかなか攻めた内容。

実験前、研究者の予想としては、「不満がたまっている相手は、自分の気持ちをちゃんと理解してほしい」と思っていて、その欲求が満たされることが関係改善の肝だと予想していました。

しかし、実験結果は、

「正確な理解よりも、相手が自分に対して共感しようと努めてくれているなぁと伝わるかどうかが大切」

ということだったのです。

話を聴く側としては、「何かしら解決策を出さないと」とか「相手の気持ちを少しでも慰めたい」なんて思ってしまいますが、そのような「〇〇しないと」という余計な使命感は捨て、ただただ相手に注意を向けるということが、最も関係性向上に役立つのですね。

ちょっと話は変わって、教育界で有名な「ピグマリオン効果」ってのがありますよね。

事前に「この子は優秀です」と教師に伝えると、その子が本当に伸びていくなんて効果。

このカラクリも、教師が「優秀とされた子に対して積極的に関わろうとする」という行動が、子どもの実力アップにつながっているのでは?なんて言われています。

言い換えれば、その優秀レッテルを貼られた子どもに対して、教師が他の子どもよりもより注意力を向けた結果とも考えられます。

やはり、人間関係を充実させるためには、「相手に注意を向ける」ということが土台なのでしょう。

そして、そんな大切な相手に対して「〇〇してあげたい」という気持ちはもちつつも、「ただただ相手の話をきちんと聴こう」と意識して行動することが相手との関係性を充実させることになるのです。

共感力の使い方

強く共感すればするほど偏った考え方になるかも…という視点はとても大切。

なぜなら、「本能的な共感力は、自分に身近な存在ほど強く働くもの」なので、自分にそれほど関係ない人はどうでもいいのか?ということになるでしょう。

国とか世界、地球レベルにまで視点を広げると、「身近な人だけ」という考え方ではネガティブ面が大きすぎる。

だからこそ、人格形成に切り込むことができる教師という仕事、もしくは親御さんの教育の価値があるのでしょう。

そんな大人側だからこそ覚えておきたいのは、「共感力の使い方」。

繰り返しになりますが、感情的な共感力を前面に出して行くと「私たち」VS「それ以外」という構造になっちゃうよということは忘れないようにしたいものです。

だからこそ、感情重視の共感力ではなく、認知面の力を発揮する必要がある。

例えば、「普段、いがみ合っているクラスが、体育祭みたいなイベント事になると一致団結」みたいなことってありません?

先ほどのスポーツ観戦でも同じようなことを指摘しましたが、私たち人間は、「立場を変えることで、共感力の方向性を変えることができる」のです。

要するに、

「どうしてあの人は、〇〇な態度だったのだろうか?」
「いや、待てよ。きっとあの人は、〇〇だったに違いない。」

みたいな感じで、相手の視点を取得することにより、働かなかった共感力を刺激することができる。

要するに、よりよい関係性を築くために共感力を使うなら、

「その他」という分類になりがちな対象に対しては、意識的に発揮しようと努めるしかない

ということ。

共感力が重要になってくる教師という仕事を遂行する上で、この視点は欠かせません。

自分という存在をメタで見て、

・共感力を発揮しやすい状況
・過共感になりすぎる状況
・それ以外と分類されがちな状況

を認知することで、共感力をよりよく使いこなすことができるでしょう。

大切な人と充実した関係を続けたいのであれば一読必須👇

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共感力の刺激法

自分の共感力の偏りを認知すると、「もっと共感力を発揮するには?」という新たな問題が生まれるでしょう。

教師も人間ですから、自分と近い感覚の子どももいれば、どうしても価値観の違う子どももいますからね。

そんな「価値観の違い」は、共感力回避にもつながりかねません。

そんな状況を乗り切る方法を、3つ紹介します。

①「個」で関わる

人間は誰しも所属する集団によって別々の顏を使い分けます。

子どもも同じで、「集団」と「個」では別の反応をするでしょう。

だからこそ、共感力が上手く発揮できないのであれば、その子どもと「個」で関わる時間を割き、意識下の「私たちゾーン」に引き込むことで、共感力を刺激することができます。

②視点取得

「相手の立場で考えること」の優れた点は、「分からない」状況を「分かった」に変えるところにあり。

上記でも触れましたが、相手の行動を、「自分が〇〇だった時と同じかもな」と自分の経験値と重ね合わせることで、「未知」が「既知」に変わります。

すると、共感力を発揮できる「私たちゾーン」として認知することができるでしょう。

③トップダウン式

有無を言わさずに自分自身に命令するという力技が、このトップダウン式。

例えば、「先生とは、子どもたちの気持ちをケアする仕事だ!!」と自分の仕事を定義することが、共感力を発揮することにつながります。

定義した自分自身の価値観を実現できるよう振舞うことで、任務遂行に必要不可欠な義務感が生じ、共感力を刺激することができるでしょう。

【最後に】心の余裕をもつ大切さ

長々と共感力について書いてきましたが、忘れてはいけないのは、「心の余裕」です。

自分自身に余裕がない状態で、「他者のために…」というモチベーションはなかなか難しい。

共感力は、認知的リソースが必要不可欠ですからね。

趣味や大切な人との時間を充実させ、心の状態をよりよくしておくことが、共感力につながります。

共感力を伴った思いやり行動は、確かにあなたの人生を向上させてくれますが、それ以上に「自分自身」を慮ってあげましょう。

具体的に共感力が働かなくなる状況をまとめた記事はこちら👇

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